新月と太陽

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「――ルネ! 何をしているんだ!」 「血を抜くんだよ! それであんたの血を飲む! もう子どもじゃないんだ。いま歳が止まっても困らないだろ!」 「馬鹿を言うな! お前をヴァンピールにはしない!」 「馬鹿はあんたの方だよ、オーギュ! ヴァンピールになる方法を、俺に教えたのはあんただろ!」  死に物狂いでナイフを握りしめるルネの手を、オーギュストが捻りあげる。 「本当はずっと迷ってたんだろ? 俺がヴァンピールになってくれたらいいと心のどこかで望んでいたんだ。俺が自分から離れていくことを考えたら、死ぬほど寂しかったくせに!」 「――違う! 迷ったことなどない! お前をヴァンピールにしようと思ったことは一度もない!」 「よく言うよ! あんたはどうせ後になって後悔するんだ! あのとき俺をヴァンピールにしておけばよかったって!」 「お前は少しもわかっていない! 私のような怪物になることが、どれほど醜悪なことなのか」 「わからないよ! そんなことわからなくても構わない! でもふたりならどうにかなることだってあるだろ!」  ――同じ時の中に生きるだけが、彼を愛する方法ではないわ。  揉み合いながらふいに、マリー=アンヌの最後の言葉が頭をよぎる。  ――私の最後のお願いよ。これからは私の代わりに、あの人を守ってあげて。  やめてくれ。  俺に押しつけるな。  そんなものクソ喰らえだ!
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