新月と太陽

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 ここで暮らすようになってからも、ときどき孤児院のことを思い出す。俺はいつも腹ぺこだったし、職員は些細なことですぐ俺たちを殴った。特にあの太った院長は――思い出すだけで吐き気がするからここには書きたくない。  あの夜、オーギュが院長から俺を助けてくれたとき(多分院長は致死量まで血を吸われて死んだんだと思う。自業自得だ!)神様っているんだなって思った。実際は神様じゃなくてヴァンピールだったけど、そんなのたいした違いじゃない。  誰か助けて、っていつも心の中で叫んでた。職員だって気づいていたのに見て見ぬふりをした。院長に殴られて左目がつぶれたときだって、誰も俺の言うことを信じてくれなかった。だけどこの世界で、オーギュだけは俺を助けてくれた。  一緒に来るかって聞かれて、うん、って即答した。ずっと外の世界に行きたいと思っていたし、あの孤児院に比べたらきっとどんなところでもましだと思ったから。  でも来てみたら、ましなんてもんじゃなかった! ここは幽霊屋敷だけど、俺はもう腹ぺこじゃないし、気まぐれに殴られることもない。就寝時間の後に聞こえる足音にびくびくする必要もないし、何よりいつもオーギュがそばにいてくれる。  ここは俺の家で、オーギュは俺だけの主人だ。こんなことは人生で初めてで、朝起きて全部夢だったらどうしようって、ときどき不安になる。
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