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「お前、どうせ何も食ってないんだろ! ちょっと待ってろ、隣の家の奴に何かもらってくるから!」
アンリはそう大声を上げながら、止める間もなく部屋を飛び出していった。
嵐が去った部屋の中はやけに白々とし、明るい水底に沈んでいるような感じがした。
それからまもなく、アンリは隣から分けてもらった野菜スープと借りてきた厚い布団を抱え、ばたばたとルネの部屋に戻ってきた。
「自分で食える? 俺があーんして食わせてやろうか?」
からかうように言うので、ルネは自分でスプーンを持った。
久しぶりに喉元を過ぎる、温かな感触。胸の奥が少し緩むような感覚がする。
アンリはベッドの端に腰を下ろし、無言のままスープを飲み続けるルネを黙って眺めていた。だがしばらくすると辺りを見回し、不審げな顔でこう聞いた。
「……なあ、お前の主人はどうしたの? 看病してくれなかったのか?」
その言葉を聞いた途端、緩んだはずの喉の奥が、ふたたびきゅっと締まった。
「……家に、いないのか?」
答えようとしても、すぐに言葉が出てこない。
アンリはルネの頬の傷跡に気づき、指先でそっと撫でた。
「お前、大丈夫?」
「……大丈夫、じゃ、ない」
声に出した瞬間、押し込めていた感情が決壊した。両目から滝のように涙があふれる。
アンリは慌ててルネの手からスープ皿を取り上げ、咽び泣く頭を胸に抱えた。そして震えの止まらないルネの背中を力強くさすり続けた。
しばらくその胸の中で泣き、徐々に気持ちが収まると、ルネはようやく口を開いた。
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