新月と太陽

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「一緒に暮らしはじめたときから、俺はそれを知らされていた。だから俺もずっとヴァンピールになりたいと思っていた。だけど、オーギュはずっとそれを拒んでいた。俺に、人としての人生を歩めと言って」  相変わらずアンリは何も言わない。ただ握る指に力を入れた。 「ヴァンピールは歳を取らないから、それが周りにばれないように、5年を目処に各地を移動する。オーギュがパリに戻ってきて、もう5年目に入ったところだった。つぎは俺も一緒に移動するつもりだった。いや、それよりも――」  ルネは視線を手元に落とした。 「もうヴァンピールにしてくれと、オーギュに懇願した。これからもずっと、一緒に生きていきたかったから。オーギュはそれを――拒んだ」  (うつむ)いた瞳からふたたび涙がこぼれ落ちた。アンリは慌てて胸元からハンカチを取り出し、ルネに手渡した。 「信じるよ、ルネ。俺はちゃんと信じる。事情はおおかた理解したよ。ぜんぶひとりで抱え込んで、辛かったな」  ルネの顔を覗き込み、安心させるようにアンリは言った。アンリのハンカチを目元に押しつけ、ルネは何度も頷いた。  ぜんぶ信じてくれなくていい。その場しのぎの慰めで構わない。でもこうやって寄り添ってくれる友が居てくれたことが、何より幸運だと思う。 「――ありがとう、アンリ。話を聞いてくれて」 「話くらいいくらでも聞くよ。そもそもお前って自分の話をほとんどしないだろ。困ってんならちゃんと言えよ。もっと俺を頼りにしろよ。いつまでも天涯孤独みたいな顔しやがって、そばにいる俺に失礼だろ?」  どんなときも変わらないアンリの明るさにほっとする。  少し肩の力を抜くと、アンリも安堵したのか笑みを浮かべた。ルネの肩を軽く小突き、そしてこんなことを言った。
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