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「まあ、そんなに思い詰めるなって。お前の主人だって、いつかまたひょっこりこの家に戻ってくるかもしれないしさ」
(――戻ってくる?)
ルネはぽかんとアンリの顔を見返した。何気なくアンリの口から出た言葉で、初めてその可能性に気づいたのだ。
あれは、永遠の別れだと思い込んでいた。一方的な思いを押し付けたせいで、もう二度と会えなくなってしまったのだと。でも、いつかまたこの家に戻ってくることがあるのなら――
そしてふと、もうひとつの重大な事実に気づいた。
この家は、主人がマリー=アンヌから借りていたものだった。マリー=アンヌが亡くなったいま、その所有は現在のモンテスキュー伯爵であるアンリの父に戻るだろう。そうなればいままでのように、この家に住むことができなくなるかもしれない。
もしここから追い出されたら――主人が戻ってくるかもしれない場所を、永遠に失ってしまうことになる。
ルネは慌ててベッドから飛び降りた。勉強机の引き出しを開け、その奥から布の袋を引っ張り出す。
「――おい、どうしたんだよ、ルネ!」
戸惑うアンリの目の前で、袋の中身を床にぶちまけた。
薔薇色珊瑚のネックレス。極彩色の宝石が輝く指輪。ダイヤモンドのブローチ。真珠の髪飾り。ピジョン・ブラッドのルビーの輪。そしてファンシーイエロー・ダイヤモンドが中央に輝く、巨大な宝石飾り――
きらきらと音を立て、山のような宝飾品が開いた口からこぼれ落ちる。
それはかつてルネが仮装舞踏会で手に入れた戦利品の山だった。真昼の光を透かし、華やかな陰影が床に流れる。
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