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「――ずっと眠れないんだ。俺が眠るまで、握っていてくれる?」
冷え切ったルネの手を、アンリの両手が包み込む。
大きな手。その力強い温もりが、掌からゆっくりと流れ込み、凍っていた魂を溶かしていく。
かけがえのないものを、一度に失ってしまった。天涯孤独だった自分を、優しく見守っていてくれた瞳を。残酷な世界から守り、抱きしめていてくれた腕を。それを失ったらもう、生きていけないような気がしていたのに。
神様は、最後の光を残してくれた。
「……どうしてこんなに優しくしてくれるの? 俺にはアンリにあげられるものなんて、何ひとつないのに」
疑問に思って尋ねると、アンリは勢いよく吹き出した。
「ルネって頭がいい割に、肝心なところで馬鹿だな」
「……馬鹿って何だよ。だって俺と一緒にいたって、アンリは何も得しないだろ」
するとアンリは、いつかどこかで聞いた台詞を口にした。
「だってお前って、俺がモンテスキューだとか気にしないだろ?」
「何言ってんだよ。気にしてるに決まってるだろ」
くちびるを噛み締め、溢れそうになる涙を必死に堪える。そんなルネの顔を見て、アンリはふっとそよ風のように笑った。
「大丈夫。ずっとそばにいるよ」
凍えていた草木を目覚めさせる、優しい、春の太陽。
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