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嵐の去った雲の上に、ばたりとアンリは仰向けに倒れた。ルネは仁王立ちになり、それを上から睨みつける。
「……一緒になって遊んでないで、たまには君も注意したらどうだい?」
「注意するのはお前の役目、一緒に遊ぶのが俺の役目」
まったく反省の色もない。ルネはどすりと鞄を下ろし、長いため息を吐きながらソファに沈み込んだ。
「お前、どんどん母親みたいになるな」
アンリは綿まみれのままくすくすと笑っている。
「母親じゃない。せめて父親って言えよ」
「ルネはよくやってるよ。最初はどうなることかと思ったけど」
ルネは部屋中に撒き散らされた綿の欠片を眺め、呆れ笑いを漏らした。
ルネがふたりの子を引き取ったのは、2ヶ月ほど前のことだ。ルネとアンリがこの家で同居しはじめてから、すでに3年が経過していた。
ルネは無事エコール・ノルマル・シュペリュール(高等師範学校)に入学し、1年目にリサンス(学士号)を取得した。3年目である来年には、ついにアグレガシオン(高等教育教授試験)を受けることになる。
アンリも〈ビジネス〉の準備に忙しい。ルネはもうすぐ21歳、アンリは現在24歳だ。
「アンリにも……本当に感謝してるよ。アンリがいてくれなかったら、俺ひとりじゃどうにもならなかった」
あのふたりをこの家に連れてきた頃は、いまよりもっと酷かった。
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