ふたりの子

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 オーギュストは生意気で反抗的だし、マリー=アンヌは泣き虫ですぐに熱を出す。ルネはエコール・ノルマルに通いながら、必死でふたりの世話をした。 「でも、親はお前だからな。俺はあいつらの、ただの友達」  アンリはいまも変わらず、大雑把で鷹揚だ。小言の多いルネに対して、アンリはあのふたりを上手く甘やかすので、近頃ではルネよりアンリの方が好きだと言われる始末だ。  親というものが、子どもに対しどんなふうに振る舞うかなんて何も知らない。きっと自分のしていることは、主人が自分にしてくれたことの真似事なのだろう。  あのふたりの子には、今年の秋のはじまりにパリの東の貧民街で出会った。  オーギュストがこの家から消えて以来、ルネはその行方を探し続けていた。もちろん国外へ出た可能性も大いにある。アンリは用事があって遠出をするたびに、その街の画廊に立ち寄り、オーギュスト・デュランという名の画家が――もしくは仮名を使っている可能性も視野に入れ、彼のような特徴を持った男が来たことがないかを聞いて回った。  ときおり、似ている男を見たことがあるという返事が返ってくることがあった。しかしいずれも、2、30年も前の話だという。  それはオーギュスト・デュランという男がいまの姿のまま長い年月を生きていたのだという証拠に他ならず、当初は半信半疑だったアンリも、あの男は正真正銘のヴァンピールなのだと確信を抱くようになっていた。
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