ふたりの子

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 ルネも毎週末、夜になるとパリの街中に主人の姿を探した。いま主人がいったいどこにいるのかなど、皆目見当もつかない。だが、ただじっと待っていることもできなかった。  はじめに思いついたのは、かつてオーギュストが〈仲間〉と住んでいたというパリの東の屋敷だった。ルネはパリの東側の街を歩き回り、およそ50年前、〈ヴァンピール騒ぎ〉があり、焼き討ちにあったという屋敷について尋ね回った。  そしてついに、ルネはその場所を探り当てた。  そこにはすでに新しいアパルトマンが建ち、当時の面影は何も残っていなかった。だがその場所に立ったルネは、ある事実に気づいた。  ヴァンピールらの隠れ家のあった場所は、ルネが13歳まで暮らしていた孤児院から、ほど近い場所だったのだ。  主人に助け出されたあの夜、主人が自分のいた孤児院を通りかかったのは、その屋敷の跡地に戻ってきていたからかもしれない。ルネはそう推測した。  すると主人は、かつての仲間たちを(しの)ぶためここに戻ることがあるのかもしれない。それは主人を探すための唯一の手がかりとなった。  その日からルネは、毎週末の夜、その地区一帯を歩き回るようになった。それが済むと、他の地区へも見回りに行く。  セーヌ河のほとりや、オペラ座近くの繁華街、エッフェル塔のたもとや、マリー=アンヌの眠るペール・ラシェーズ墓地――  アンリはルネに付き合い、その度ごとに車を出してくれた。いつものように何の収穫もない帰り道、アンリがそばにいてくれて良かったとルネは心底思う。  こんな孤独で先の見えない捜索なんて、ひとりじゃとても身が持たない。  ふたりの子に出会った夜も、ルネは主人の捜索のため東の貧民街にいた。
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