ふたりの子

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 何を考える間もなく、ルネは反射的に走り出した。そしてふたりのあいだに強引に割り込み、男の胸を強く押しやった。 「――なっんだよてめえは! 横取りかよ!」  酒臭い怒声がルネを襲う。  ルネは急いでポケットから5フラン銀貨(約5千円)を取り出し、男に突き出した。 「子どもを相手にすんな! これで店にでも行けよ!」  男は突然押しつけられた銀貨に目を丸くした。だが状況を呑み込んだ途端、赤ら顔にぱっと笑みを浮かべた。 「おお、羽振りがいいな、兄ちゃん! 悪いねえ。お陰で久しぶりに女が抱けるわ」  男は少年に握らせた小銭をふたたび巻き上げ、意気揚々と去っていく。  だが、ルネがほっとしたのも束の間、こんどは取り残された少年が非難の声を上げた。 「何なんだよてめえは! 邪魔すんなよ!」 「何なんだよじゃないだろ! お前みたいな子どもが夜中にひとりで出歩いていたら危ないんだよ! 家はどこ? 親は?」 「いいことでもしたつもりかよ! 明日のパンが買えねえだろ! 死んだらどうしてくれんだよ!」  ルネの問いに答えもせず、少年は凶暴な野良犬のように喚き立てる。
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