ふたりの子

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 ルネは少年の腕をつかみ、街燈の下へと引っ張っていった。  明かりの下で見てみれば、この寒空の下、擦り切れたシャツ一枚に足は裸足だった。顔は汚れ、手足は痩せ細り、伸びっぱなしの黒い髪は鳥の巣のようにもつれていた。 「じゃあ、!」  年端もいかない少年の口から、耳を疑う言葉が飛び出す。  ルネはようやく事情を呑み込み愕然(がくぜん)とした。――この少年は自ら身体を売りに行ったのだ。どうしようもない飢えを満たす為に。 「――俺は買わないよ!」 「それじゃ明日のパンが買えないだろ! どうすんだよ! 責任取れよ!」  言い返すと、少年はいまにも噛みつかんばかりの剣幕で怒鳴り立てる。 「お前、家はどうしたんだ?! 親は?」  ふたたび問い返すと、少年はぎろりとルネを睨み上げた。 「――追い出されたんだよ! 3ヶ月家賃を滞納したからって! 母ちゃんは病気で死んだし、父ちゃんもどこかに行ったまま帰ってこない! アル中だったから、きっとどっかで野垂れ死んだんだろ!」  喚き立てるその目に、怒りと涙が滲んでいる。ルネは少年の前にしゃがみこみ、その小さな汚れた掌を握った。 「――飯、食わせてやるから、うちにおいで」  思わずそう言葉にしてしまった直後、後悔が胸をよぎった。 (飯を食わせ、風呂に入れ、布団で寝かせて、その後は――いったいどうする。またこの街に放り出すのか?)  だが少年はルネの言葉に、ぱっと瞳を輝かせた。
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