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「本当に? じゃあちょっと待っててくれる? 妹も連れてくるから!」
「妹がいるのか?」
「うん。橋の下に置いてきたからさ」
そう言って少年は走り出す。ルネは小走りでその後を追いかけた。
辿り着いたのは河とも言えない、腐った水が澱む細い運河だった。それを跨ぐ小さな鉄橋の下を覗き込むと、小さく縮こまる黒い塊がある。
「エミリー、起きろよ! 知らない兄ちゃんが、俺たちに飯を食わせてくれるんだって!」
少年はその塊を揺さぶった。だが返事は返らない。
嫌な予感がした。その塊を両腕に抱きかかえ、街燈の下へ慌てて走る。抱きかかえた腕の軽さに、最悪の想像が頭によぎる。
汚れた毛布に包まっていたのは、2、3歳ほどの少女だった。
ぐったりと身じろぎもせず、その瞳を固く閉じている。薄汚れてはいるが髪はブロンドの巻毛で、兄の容姿とあまり似ていなかった。
「……えっ、エミリー、どうしたんだよ! な、何で……昼間は元気だったのに」
少年はおろおろと妹の顔を覗き込んだ。少女の額に手を当てると、まるで火がついたように熱い。高熱を出している。
「医者に連れて行こう! お前も一緒においで」
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