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ルネは少女を抱えたまま、足早に歩き出した。だが少年はもじもじとその場を動こうとしない。
「で、でも、金が――」
「金なんか俺が払ってやるから!」
その言葉を聞いて安心したのか、少年はルネの後を追いぱっと走り出した。
少女を抱きしめ、アンリを待たせている大通りへと走る。アンリは街燈の下に黒塗りのパナール・エ・ルヴァッソールを止め、運転席で新聞を読んでいた。ルネは少年の腕を引っ張り上げ、後部座席にばたばたと乗り込んだ。
アンリは新聞を傍に置き、ぎょっとした顔で振り向いた。
「――何だよ、そんなに慌てて……えっ、そのガキどうした!」
ガキと呼ばれた少年は、生まれて初めて乗る自動車に目を白黒させている。
「アンリ! 病院に連れて行って!」
「えっ、病院?! この時間に? 怪我でもしたのか?」
尋ねながら、アンリもようやくルネが幼い子どもを抱えていることに気づいた。
「どうしたんだ、その子。病気なのか?」
「わかんない。でもすごい熱で――」
ルネの返事も聞かぬまま、アンリは車のエンジンをかける。
「飛ばすから、しっかり掴まってろよ!」
そう言ったときにはすでに、夜の大通りを走り出していた。
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