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「……ジャンは家から追い出された後、孤児院に入れられなかったの?」
ジャンが腹を満たし、気分が落ち着いてきた頃を見計らい、ルネは尋ねた。
「入ったよ、少しのあいだだけど。でもエミリーを連れて逃げ出して来た」
「逃げ出した? 何か酷いことをされたの?」
ジャンはもぐもぐと口を動かし、淡々とこう答えた。
「院長がさ、エミリーを売り飛ばそうとしたんだ」
その答えに、ルネは言葉を失った。
「――盗み聞きしちゃったんだよ、院長が金持ちっぽい男と話をしているのをさ。その男がエミリーを指差して、あの子はいくらだ?って院長に聞いた。院長は200だとか300だとか言ったっけ。男の方は、どうせ浮浪児なんだからもう少しまけろだなんだって文句を言って、院長は、あの子は器量がいいから十分元は取れるでしょう、ってさ」
いまでも貧民街にはよくある話だ。
孤児や浮浪児の中でも器量のいい子どもを探し、無許可の娼館に高値で売り飛ばす。歳は若ければ若いほどいい。中には幼児を好む客もいるからだ。
「いまは薄汚れてよくわかんないかもしれないけどさ、エミリーは本当に器量がいいんだよ。近所でも将来美人になるって評判だった。エミリーの母ちゃんに似たんだよ。俺とは血が繋がってないからね」
「血が繋がってないって、どういうこと?」
ジャンはずずっと音を立て、スープを飲み干した。
「連れ子同士なんだよ。エミリーは母ちゃん、俺は父ちゃんの連れ子。再婚してすぐ、エミリーの母ちゃんは病気で死んじゃったけどね」
そしてジャンは空になったスープ皿に視線を落とした。
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