ふたりの子

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 アンリは笑いながらジャンの服の裾を引っ張り、丸裸になったジャンを浴室へ連れていった。  その隙に、ルネは自分のベッドで寝ているエミリーの様子を見に行った。  エミリーは厚い布団にすっぽり埋もれ、安らかな寝息を立てていた。ジャンの言う通り、よく見れば天使のような愛らしい顔立ちをしている。  ベッドの端に腰を下ろし、その金の巻毛を優しく撫でた。かつて主人が自分にしてくれたように――  途端、名前のつかない感情がどっと胸に込み上げる。それが目の奥から溢れ出しそうになり、必死でくちびるを噛みしめた。  アンリは風呂から上がったジャンを自分のベッドに寝かしつけた。ジャンが眠ったのを確認すると、ルネとアンリは毛布を抱え一階の応接間に降りた。  薄い毛布に包まり、それぞれソファに横になる。灯りを消した部屋の中、久しぶりに火を入れた暖炉がぱちぱちと火の粉を散らした。 「――アンリ、今日は本当にありがとう。アンリがいなければ、医者にさえ診てもらえなかった」  向かい合わせのソファに横になったアンリに、ルネは改めて感謝を述べた。 「あんなのたいしたことじゃない。悪い病気じゃなくて良かったよ」  アンリはそう言ったが、ルネは自分の無力さを情けないほど痛感していた。  ――この世界で生きていくためには、どうしてもお金が必要よ。何か問題が起きたとき、速やかに解決するためには力も必要。  あのときのマリー=アンヌの言葉の意味が、いま頃になってようやく身に沁みる。
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