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「だけどな、ルネ。子どもを育てるなんてそう簡単なことじゃないぞ」
「わかってるよ」
「もしこの先、誰かと結婚を考えるようなことがあれば、それが足枷になる可能性もあるんだぞ」
アンリの口から思いもよらない言葉を聞き、ルネは虚をつかれた顔をした。
「結婚? しないよ、多分――」
ルネの反応が意外だったのだろう、アンリも目を丸くする。
「はっ? どうして? 俺はそのうちすると思うよ、多分」
「アンリはしたって構わないよ……ちょっと寂しいけどね」
「何だ、たまには可愛いこと言うじゃん」
ルネがふと漏らした呟きに、アンリは小さく吹き出した。
「――じゃあ俺が嫁さんをもらったら、みんなで一緒にここに住もうか?」
「新婚夫婦と一緒なんて勘弁してよ」
こんどはルネが笑った。火の粉が弾ける音が、ふたりの笑い声に重なる。
「お前が学校に行っているあいだはどうするの?」
アンリが話題を戻し、現実的な質問をした。ルネは表情を引き締める。
「エミリーには乳母を雇うよ。ジャンは学校に通わせる。料理人も必要であれば雇うし。お金のことなら心配しなくても大丈夫。――オーギュが残してくれた金がまだ山ほど残っているから」
「まあそれは、うちで雇っている人間を派遣してやってもいいんだけど……」
アンリは煮え切らない声を出し、うーんと唸った。
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