ふたりの子

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「現実的なことは、案外どうにでもなるんだよな。俺が心配なのは、お前が一時の感傷に流されてるんじゃないかってことだよ。野良猫を拾うのとは訳が違うんだ。あとで後悔して、途中で放り出すことはできないんだぞ」 「放り出すなんて――」  その言葉がルネの胸を抉った。  それは、ルネが主人に出会ってから何よりも恐れていたことだった。いまが幸せだと思えば思うほど、抜けない棘のように不安が胸をよぎった。  いつか主人に見放され、放り出される日が来るのではないかと。 「――悪い。お前のことを言ったんじゃない。お前は放り出されたわけじゃない」  ルネの心を見透かすように、アンリは慌てて弁明した。 「お前の主人の判断は、お前の幸せを願った末のことだ。離れたくて離れたわけじゃない」 「わかってるよ。俺たちは、ああなる以外どうしようもなかったんだ。ごめん、たしかに感傷に流されているところはあると思う。でも気まぐれでこんなことを言い出したわけじゃないんだ」  形のない自分の気持ちを浮かび上がらせるように、丁寧に言葉を紡いでいく。 「――俺はたぶん、あの子たちに同じことをしてやりたいんだ。オーギュからしてもらったのと同じことを。オーギュが俺に望んだのと同じことを」  主人が自分に望んだこと――自然と口から滑り出た言葉に、自分自身が驚いていた。  一緒に暮らしていたとき、主人は口癖のように繰り返していた。勉強をし、いい職業に就き、家庭を持てと――それはの人生だと。きっと自分も親になれば、あの子たちに同じように言うだろう。  あの子たちに、ふつうの人生を歩ませてやりたい。あの薄暗い路地裏ではなく、光の当たるおもての道を。ふつうの人生とは、当たり前にそこにある人生のことじゃない。特別な、幸せな人生のことを言うのだ。
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