ふたりの子

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「……アンリ。オーギュは俺に『光の中にいてほしい』って言ったんだ。いま俺も、オーギュと同じように思った。あの子たちに明るい人生を歩んでほしいって」  ルネの言葉に耳を澄ませ、アンリは静かに微笑んだ。 「俺はずっと、ヴァンピールになっても幸せになれると思ってた。オーギュの背負った苦しみなんて何ひとつ理解しようとせずに。でも、オーギュが俺をヴァンピールにしなかったことを、いま初めてよかったと思ったんだ。ヴァンピールにならなかったから俺は、あの子たちにふつうの人生を歩ませてやれる。一生そばにいると約束してやれるんだ」  自分が口にした言葉を忘れないよう、繰り返し胸に刻み込んだ。 (――俺はヴァンピールじゃない。これは、ヴァンピールにならなかったからこそできることだ)  そうしてルネは、〈小さなルネ〉に別れを告げた。孤独に怯え、泣いてばかりいた小さな子どもに。もうひとりでも大丈夫だと、背中を押して送り出す。  もう十分、自分の足で歩ける。漆黒の外套に守られていなくても、自分の足で、自分の決めたところへ歩いていける。 「俺があの子たちの、親になるよ」  誓いの言葉のように、はじまりの挨拶のように、別れの抱擁のように、アンリの瞳にそう告げた。
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