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「あのね、ジャン。俺はね、生まれたときから孤児院で育ったんだ。だから家族がいないんだよ」
そう言ったルネに、ジャンはきょとんと目を丸くした。
「えっ……だって、ルネはこの家で生まれたんじゃないの? アンリはルネの兄さんだろ?」
思いがけない反応に、ルネは小さく吹き出した。
「ううん、違うよ。アンリは俺の一番の親友。この家はね……もともとモンテスキュー伯爵夫人のものだったんだ。その人が貸してくれてね、俺は十三の頃からここで家族みたいな人と一緒に暮らしていたんだ」
「家族みたい、ってどういうこと?」
ルネは寂しげな笑みを浮かべた。
「俺を孤児院から救い出して、ここに連れてきてくれた人だよ」
「……その人はいまどこにいるの?」
その率直な問いに、ルネの眉が寂しげに歪む。
「……ちょっと複雑な事情があってね、3年前にここを出て行っちゃったんだよ。でもいつか戻ってきてくれるって信じてる。きっといまも遠くから俺を見守ってくれているはずだから」
そう答えるルネの声がかすかに揺れた。ジャンはそれに気づき、労わるようにルネの掌を握り返した。その力強い温かさが、ルネの心を奮い立たせた。
「だからね、ジャン、エミリー……よかったら俺の〈家族〉になってくれないかな? ひとりでその人の帰りを待つのがとても寂しいから」
その言葉の意味を、すぐには呑み込めなかったらしい。ふたりはぽかんとルネを見上げた。
「えっ……俺たちとルネが、家族?」
「もしね、ジャンのお父さんが見つからなかったら……代わりに俺が君たちのお父さんになりたいんだ」
目を白黒させるジャンに、ルネは力強く微笑んだ。
「それでふたりがずっとここにいてくれたら、俺はとっても嬉しい」
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