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泣き疲れて眠ったエミリーを左腕に抱え、もう片方でジャンと手を繋ぎ、墓地を後にする。ジャンは真っ赤になった目元を何度も擦り、オムニビュス(乗合馬車)に乗るまでずっとばつが悪そうにしていた。
がたがたと馬車に揺られ、流れゆくパリの街並みをふたりでぼんやり眺めた。パリの中心部へと戻ってきた頃、ジャンの口からようやくぽつりと言葉が漏れた。
「……あんなに涙が出るなんて思わなかった」
「……当たり前だよ。家族なんだから」
ルネが答えると、ジャンは思いがけないことをルネに聞いた。
「ねえ、もし俺が死んだらルネは泣いてくれる?」
「――何言ってるの! ジャンが俺より先に死ぬわけがないだろ!」
思わず大声で言い返すと、周りの乗客が不審げにルネに目を向けた。ルネの気まずそうな顔を見て、ジャンにようやく笑顔が戻る。
「死んだときに泣いてくれる人がいるのって、何だかいいなと思ってさ」
「だからジャンは俺より早く死んだりしないってば。俺の方が年上なんだから」
向きになって言い返すと、ジャンの瞳に悪戯な笑みが浮かぶ。
「じゃあルネが先に死ぬときには、俺が泣いてやろうか?」
予想もしないジャンの言葉に、思わず息が止まった。
「俺、ルネの家族になってやってもいいよ」
そう言ってジャンはにかっと笑った。先日残りの乳歯が抜けたため、口の端に気の抜けたような隙間があった。
その笑顔があまりに強く眩しくて、急に目の奥がじんと痛い。
「……ジャンがそう言ってくれて安心した。じゃあこれからも、よろしくお願いします」
改まって頭を下げる。ジャンもかしこまった顔をして、こちらこそお願いしますと頭を下げた。何だか無性におかしくて、ふたりで笑い合った。
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