108人が本棚に入れています
本棚に追加
「まりいあんぬ?」
だがエミリーはきょとんと首を傾げた。その意味をまだよく理解できないらしい。
ジャンはルネの胸の上に身体を乗り出し、エミリーに顔を近づけた。
「ルネがエミリーをマリー=アンヌって呼びたいんだって。お姫さまみたいだからいいよな?」
「おひめさま? エミリー、おひめさまだぁいすき!」
エミリーが無邪気な声を上げ、ルネに頬をぴたりと寄せる。
「……本当に構わない? 嫌じゃない?」
不安げな顔をするルネを見て、ジャンは太陽のような笑顔を見せた。
「そりゃちょっと変な感じはするけどさ、いいよ、ルネがそう呼びたいのなら。ルネは俺らに家も飯もくれるんだもん。そのくらいのお願い、朝飯前だよ。今日から俺たち、ルネの大事なオーギュストとマリー=アンヌになってあげる」
その言葉に、思わず目頭が熱くなる。どうもありがとう、とルネはふたりに礼を言った。
「オーギュスト」
初めてそう呼びかける。今日からオーギュストとなった少年が、照れ臭そうに身体をくねらせた。
「マリー=アンヌ」
新しいマリー=アンヌも、金の巻毛を揺らし、くすくすと笑った。
そしてルネはふたりに、とっておきのアドバイスをする。
「『君たちは、決して自分を安売りしてはいけないよ。何事もはじめが肝心だ。決してへりくだっちゃいけない。これからは王侯貴族のように優雅に、皇帝のように堂々としているんだよ』」
「何だよそれ、笑っちゃう」「おーこーきぞくってなぁに?」
オーギュストとマリー=アンヌは、聞き慣れぬ言葉に顔を見合わせ笑った。
「我が家へようこそ。俺の子どもたち」
ふたりを腕にきつく抱きしめ、柔らかな頬に何度も何度もキスをした。
最初のコメントを投稿しよう!