地下の怪人

3/19

108人が本棚に入れています
本棚に追加
/257ページ
 ふたりは並んで食堂へと向かいながら、同時に深いため息をつく。 「……どうだ、この学校には慣れたか」 「控えめに言っても、クソガキばかりです」 「そうだろうな。やっとお前も俺の苦労がわかっただろ」 「ええ、身に沁みてわかります。あの頃に戻れるなら、先生の睡眠時間を削るような愚かな真似は絶対にしないですね」  ふたりは顔を見合わせ、肩を震わせて笑った。するとマクシムは、ふいにぴたりと歩みを止めた。 「――そうだ。今日は外に食いに行くか? お前も午後の授業なかったよな?」 「ないですけど……もちろん先輩の奢りですよね?」  悪戯な目で見上げると、マクシムは恐れ慄き、一歩後ずさった。 「……そうだな! 先輩だからな! 給料は変わらないけどさ!」  ふたりはそれぞれ荷物を部屋に置きに行き、財布を持って校舎を出た。  サン=ラザール駅へ続くこのアムステルダム通りには、多くの飲食店が軒を連ねている。ふたりは適当なビストロに入り、窓際のテーブルについた。マクシムは迷うことなく鶏のクリーム煮込みを、ルネは少し迷った末に豚肉のコンフィを注文した。  穏やかな春の日差しが、燦々と窓から差し込んでいる。マクシムは頬杖をつき、目の前のルネの姿をぼんやりと眺めた。そこに見えるのは、あの頃の人に懐かない痩せた野良猫のような少年ではなく、少し影のある聡明で美しい青年の姿だ。
/257ページ

最初のコメントを投稿しよう!

108人が本棚に入れています
本棚に追加