地下の怪人

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「覚えてるよ! あいつはお前と違って、聞き分けのいい優等生だったなぁ。ルイ=ル=グランの卒業後は、イタリアの大学に進学したんだっけ?」  ルネは頷いた。レオナルドはイタリアの名門校ローマ大学の哲学部を主席で卒業し、今年度からヴェネチア大学の助教授に就任した。  その後、地元の幼馴染と結婚式を挙げたのだという手紙が少し前に届いた。 「どうやらレオには追い越されちゃいましたね」  ルネがからかうと、マクシムはふたたび渋い顔をした。だがすぐに、悪戯を思いついた子どものように、瞳をきらりと輝かせる。 「そう言うルネはさ、結婚とか考えないの? まだ若いんだし、恋人とかさ……お前って、結構モテるだろう? うちの事務員で、いつもニコニコして可愛らしい子いるのわかる? 長い黒髪のさ。どうやらお前に気があるらしいぞ?」 「結婚するつもりはないです。恋人も、別に要らないかなって」  きっぱりと答えると、マクシムは大袈裟にショックを受けた顔をした。 「ええー、あんなに可愛い子をもったいない。うちの学校はな、若い女の子を滅多に雇わないんだ。このチャンスを逃したら、もうつぎはないかもしれないんだぞ?」  なぜか自分のことのように悔しがるマクシムに、ルネは呆れ顔をした。 「正直言って恋愛なんて、している暇がないですからね」 「でもさぁ、いつまでも独り身じゃ寂しいだろ?」  ――独り? ルネは微笑んだ。その言葉がすでに他人事のように思える。あれだけ騒がしい〈家族〉がいるのに、独り、だなんて。 「俺はいまが一番幸せだから、この幸せが続けばそれで十分です」  胸を張ってそう言った。心からそう思えることが幸せだと思う。
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