108人が本棚に入れています
本棚に追加
/257ページ
「覚えてるよ! あいつはお前と違って、聞き分けのいい優等生だったなぁ。ルイ=ル=グランの卒業後は、イタリアの大学に進学したんだっけ?」
ルネは頷いた。レオナルドはイタリアの名門校ローマ大学の哲学部を主席で卒業し、今年度からヴェネチア大学の助教授に就任した。
その後、地元の幼馴染と結婚式を挙げたのだという手紙が少し前に届いた。
「どうやらレオには追い越されちゃいましたね」
ルネがからかうと、マクシムはふたたび渋い顔をした。だがすぐに、悪戯を思いついた子どものように、瞳をきらりと輝かせる。
「そう言うルネはさ、結婚とか考えないの? まだ若いんだし、恋人とかさ……お前って、結構モテるだろう? うちの事務員で、いつもニコニコして可愛らしい子いるのわかる? 長い黒髪のさ。どうやらお前に気があるらしいぞ?」
「結婚するつもりはないです。恋人も、別に要らないかなって」
きっぱりと答えると、マクシムは大袈裟にショックを受けた顔をした。
「ええー、あんなに可愛い子をもったいない。うちの学校はな、若い女の子を滅多に雇わないんだ。このチャンスを逃したら、もうつぎはないかもしれないんだぞ?」
なぜか自分のことのように悔しがるマクシムに、ルネは呆れ顔をした。
「正直言って恋愛なんて、している暇がないですからね」
「でもさぁ、いつまでも独り身じゃ寂しいだろ?」
――独り? ルネは微笑んだ。その言葉がすでに他人事のように思える。あれだけ騒がしい〈家族〉がいるのに、独り、だなんて。
「俺はいまが一番幸せだから、この幸せが続けばそれで十分です」
胸を張ってそう言った。心からそう思えることが幸せだと思う。
最初のコメントを投稿しよう!