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「そ、そうじゃない! 俺が卑怯で臆病だったからいけなかったんだ。ぜんぶ俺のせいだよ。本当に悪かった」
サミュエルは俯き、厚いくちびるを噛み締めた。たしかにその姿は、心から反省しているようにも見えた。
ルネは数歩近づき、真正面からサミュエルを見据えた。
(お互いいい大人だ。過去の遺恨なんてさっさと水に流し、素直に謝罪を受け取ってやればいい。そうしてやることもできる。だけど――)
ルネは胸の中で思案した。
「一度謝ったくらいで、すべてなかったことにできると思うなよ」
ルネの口から飛び出した言葉に、サミュエルの顔がすっと蒼ざめる。その表情を見たルネは、口の端をにやりと持ち上げた。
「いつか、正式に謝罪する場をもうけてやる。それまで反省しながら待ってろ」
顔面蒼白のサミュエルを置き去りにし、ルネは校舎の玄関口へと向かった。
その日は、日の暮れぬうちに自宅へと帰った。マリー=アンヌは応接間のソファの上で人形遊び、オーギュストは窓辺で猫の絵を描いている。
ふたりがこの家にやって来てから、応接間は第二の子ども部屋と化していた。
「おかえり、パパ・ルネ! 今日は早かったね」
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