地下の怪人

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 アンリは小さな頃から服作りが好きだったらしい。職人らが技術を持ち寄り、ひとつの作品を作り上げるのを見ているのが楽しいのだと。  ――でも、俺には儲けがないから、これは仕事とは言えない。時間と手間のかかる趣味みたいなもんだな。そう言ってアンリは笑う。 「あたし、ボン・マルシェにお人形買いに行きたいなぁ」  早速甘えた口調でマリー=アンヌが言う。 「駄目だよ、人形はこの前買ってやったばかりだろう? どうせアンリがまたお土産を買ってくるんだし」  オーギュストも負けじと横から身を乗り出す。 「俺、ブローニュの森で自転車に乗りたいよ」 「嫌だ! あたし、まだ乗れないもん!」  すかさずマリー=アンヌが反対の声を上げる。 「マリー=アンヌもちょっとは練習すればいいだろ!」 「あたしはお買い物に行きたいの! じゃあ新しい靴を買って、パパ・ルネ」 「靴だってこの前買ってやったろ。服だって、アンリが作ってくれた新しいやつがあるんだし」  するとオーギュストはふたりのあいだに割って入り、マリー=アンヌを睨みつけた。 「俺は絶対買い物なんてついていかないからな! ひらひらのスカートなんて見ても、ちっとも楽しくない!」 「じゃあオーギュはお留守番していればいいじゃない! パパ・ルネとアンリと三人で行くんだから」 「なんで休日なのに俺だけ留守番なんだよ! パパ・ルネ、公園の方が絶対楽しいよな!?」  最近は、何かを決めようとするたびふたりの板挟みになる。男の子と女の子では趣味も遊び方も違うのだから仕方がない。 「はいはい、喧嘩はおしまい! じゃあ明日、アンリに決めてもらうことにしよう!」  そう言って切り上げると、ふたりは、いーっと歯を出し睨み合う。ルネは呆れ顔でため息を吐いた。 1872年のボン・マルシェ (引用元 https://www.laps.fr/fr/p/22-bon-marche)78cd13ef-77b0-4acc-bffd-62eb57be59f2 1920年頃のボン・マルシェ (引用元 https://www.connaissancedesarts.com/monuments-patrimoine/le-bon-marche-une-cathedrale-du-commerce-moderne-11147417/)4534f8fa-bb52-47e7-8e79-efa2f0c0bb81
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