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子どもというものは、放っておくとどんどん我儘に貪欲になるらしい。でもこうして遠慮なく好き勝手言えるのは、すっかりこの家の子になった証拠なのだろう。
甘やかしている自覚もおおいにあった。だがそんな迷いが吹き飛んでしまうほど、子どもの喜ぶ顔を見るのはいいものだと、ルネはそうしみじみ思う。
思えば主人も、ルネがねだればたいていのことは叶えてくれた。――そばにいたいという願い以外は。
ふたりに夕飯を食べさせ、寝かしつけた後、アンリは大荷物を抱えて帰宅した。あるクチュリエがミラノに新しいメゾンを出店するというので、その下見に行ったのだという。
アンリは家に着くなり、使い込まれたルイ・ヴィトンの旅行トランクを広げた。マリー=アンヌへの土産の人形や、オーギュストへの土産のボードゲームなどをつぎつぎに引っ張り出しながら、ふと手の動きを止める。
「――ルネ。お前にひとつ確かめたいことがあるんだけど」
「突然どうしたの?」
アンリは視線を上げ、ルネの瞳をじっと見据えた。
「もしお前の主人が見つかったら、ルネはどうしたい?」
――どうしたい? そう問われて、ふたりの子を養子に迎え入れて以来、主人との再会を諦めはじめていた自分に気づいた。
主人と別れてから5年以上の月日が経つのに、いまだ消息は何ひとつ掴めない。
この家に主人が戻ってくる保証は端からない。再会した後のことまで具体的に考えたことがなかった。
ルネは形を変えはじめていた自分の心を手探りながら話しはじめた。
「……オーギュがもしひとりで辛い思いをしているなら、俺が手助けをしてやりたい。できることならこの家でみんな一緒に暮らしたいし、せめて俺が寿命を迎えるまではオーギュを外の世界から守ってやりたい。アンリがそれを許してくれればの話だけど」
ルネの返答を聞き、アンリはどこか安心したような表情を浮かべた。
「お前があいつをここに住まわせるかどうかは、俺が口を出すことじゃない。ルネがそうしたいならそうすればいい。でも、俺があいつと気が合うとは到底思えないけどな。もし毎日喧嘩することになっても、それは見過ごしてくれよ」
アンリは冗談混じりにそう言った。
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