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「ごめん。アンリには何から何まで頼りっぱなしで」
「そう思うなら、ルネは俺の我儘をすべてにおいて優先してくれ。お前は意外と人遣いが荒いからな」
アンリの暴君めいた発言に、胸の内で苦笑する。
(そんなこと言って、一番の世話焼きはアンリのくせに)
一見我儘そうに見える割に、アンリが本気で我儘を言ったことがいままであっただろうか。アンリは出会ったときから何ひとつ変わらず、強引で温かくて、この世界のすべてに優しい。
「もちろんそうする。もしオーギュとアンリが喧嘩になったら、ちょっとだけアンリの肩を持つよ」
「ケチるなよ! だから全面的に俺を援護しろって!」
アンリはケラケラと肩を震わせ、だがすぐに笑うのを止めた。
「……でも、ルネがそう言ってくれて、ちょっと安心した。もしヴァンピールになりたいって言いはじめたら、どうしようかと思ってた」
ぽつりとこぼしたアンリの言葉に、ルネは両目を剥いた。
「そんなこと言うわけないだろ、あの子らだっているのに……! 家族も、住む家も、仕事も……ぜんぶ放り出してヴァンピールになりたいって言うほど、俺はもう子どもじゃない!」
思わずムキになって言い返すと、アンリはほっとした表情を浮かべた。
「そっか、ずいぶん大人になったな、ルネも」
だけどそんなふうに言われると、胸の奥がむず痒い。
「……違うよ。責任感なんかじゃないんだ。俺は……」
胸に灯った明かりの在処を確め、言葉を続けた。
「幸せなんだよ。いまの生活を捨てられない。俺はもう、オーギュと同じ時間を生きられない」
自分の膝頭をぎゅっと握りしめ、視線を落とす。その手の上にアンリは自分の掌を重ねた。
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