地下の怪人

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「モデルって何の? ファントムの?」  アンリは頷いた。その深刻な声と表情に、ルネの鼓動が突然早まる。  オペラの怪人――オペラ座の地底湖に住む、死人のようなおぞましい容貌をした謎の男だ。 「本屋の店主が教えてくれたんだけど、この話、下水道の掃除夫のあいだで、4、5年前から噂になっていたことを基にして書かれたらしいんだ」 「噂って?」 「――パリの下水道に〈化け物〉が出るって」  その言葉に息が止まった。  パリの暗渠(あんきょ)式下水道は、14世紀頃から建設が開始、時代とともに整備され拡張し続けた。19世紀前半から下水道内部に上水道管も敷設されるようになり、現在の総延長は600キロ以上に及ぶ。  大都市パリの地下に蠢く闇の迷宮だ。 「黒いハットとオペラ・ケープを身につけた、長身の男なんだって。顔の上半分を仮装舞踏会でするような白い仮面で覆っていて、たとえ出くわしても向こうからぱっと逃げていく。だから下水道に住み着いた狂人か浮浪者だろうって、これまで特に問題にならなかったらしいんだけど」 「えっ、それってまさか――」 「ルネ、とりあえず最後まで話を聞いてくれ」  アンリは結論を急ごうとするルネを制止した。 『オペラ座の怪人』1910年初版本の表紙 (引用元 https://fr.wikipedia.org/wiki/Le_Fantôme_de_l%27Opéra)97c9a1d9-bde6-4b64-b83a-6ab158e4eea8
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