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しばらく通路に沿って歩いていくと、一段と天井が高く、水量の多い幹線下水道に出た。
方向から推測すると、おそらくサン=ジェルマン大通りの下を走っているのだろう。ルネはその通路を歩きながら、壁の亀裂に小さな紙切れを差し込んだ。
それはルネから主人に宛てた手紙だった。
〈オーギュ。俺は幸せに暮らしているよ。仕事もしているし、子どもをふたり育てている。あの家でみんな一緒に、ずっと帰りを待っているよ〉
下水道の中を1時間ほど歩き回りながら、同じ内容の手紙を10通ほどあちこちの隙間に差し込んだ。
果たして主人はこの手紙を見つけてくれるだろうか。わからない。もし読んでも、帰って来てくれるとは限らない。でも、やるしかない。
ルネは後ろ髪を引かれる思いで、元のマンホールへと戻った。
同様の作業を、ルネは毎週末続けた。
最初のうちは、きっとすぐに主人を見つけ出せるだろうと楽観的な考えを抱いていた。だが春が終わり、うだるような夏が過ぎ、秋が近づくにつれ、徐々に失望が胸をよぎるようになっていった。
下水道のあちこちに残した手紙も、300通に届くほどになっていた。
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