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「だが、私はお前の血を――」
「オーギュだって俺に無理なお願いをしているんだから、これでおあいこだよ」
精一杯の強がりを言うと、主人は降参したように息を吐いた。
「――わかった。首筋を出してみろ」
ルネは自分の寝巻きの襟をぐいと引き下げた。細い首筋が、月明かりの下に青白く浮かび上がる。
「痛くしないでね」
「心配するな。優しくするよ」
そう言って主人はルネの腰を引き寄せ、首筋に顔を埋めた。ルネは身を預け、瞼を閉じた。
ちくり、と小さな痛みが走った。
直後、暗い体内で、ひとつの方向に、すうっと血液が流れた。月の引力に引っ張られ、ふわりと空へ舞い上がるように、自分の血が主人の中へ流れ込んでいくのがわかる。
足元が宙に浮き、かすかな眩暈と陶酔がルネを優しく包んだ。
ふたたび目を開ける。懐かしい主人の顔がそこにあった。蒼白く熱のない、美しい彫像のような顔が。
その頬に、指先で触れる。
「――やっぱり、こっちの方が格好いいよ」
主人は仮面を外し、にやりと口の端を上げた。
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