最後の遊泳

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 セーヌの暗い流れを越え、ルーヴル宮の屋根の上。暗闇に沈むパレ・ロワイヤルを抜け、オペラ座へ。その緑青の円屋根に降り立つ。  金の竪琴(リラ)を掲げ持つアポロン像の足元に腰を下ろし、ワインの栓を開け、乾杯をした。  さすがに深夜ともなれば、繁華街を行き交う人もまばらだった。 「ここでマリー=アンヌと出会ったんでしょう?」  マリー=アンヌに聞いたのか、と主人は短い笑い声を上げた。 「正確にはこの建物ではないのだけれどね、この前に建てられていたオペラ座だ。仮建築の建物だったから、いまよりもっと質素だったよ。でも大きな仮装舞踏会がたびたび開かれてね、派手に仮装したパリ市民が押し寄せて、朝まで乱痴気騒ぎだったんだ」 「へえ。出会った頃のマリー=アンヌ、綺麗だった?」  主人はグラスからくちびるを離し、優しい視線を宙に向けた。その美しい姿を目の前に思い浮かべるように。 「綺麗なんてもんじゃない、春の女神のようだったよ。この世の美しいものをすべてかき集めたとして、あの女性(ひと)には到底敵わないだろう」 「よくそんな歯の浮くような台詞が言えるね!」  ルネは灰青の目を剥き、素っ頓狂な声を上げた。 「何だって言うさ。最後の晩だからね」  いつもより饒舌な主人がおかしくて、ルネはケラケラと笑った。そしてからかうように、主人の顔を覗き込む。 オペラ座 (引用元:https://ja.wikipedia.org/wiki/ガルニエ宮#/media/ファイル:Opéra_Garnier_facade_with_sculpture_labels.jpg)290eaac2-7c24-4585-af37-4686e77005f2
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