最後の遊泳

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「ねえ、じゃあ俺は? 俺に出会ったとき、どう思った?」  主人の長い指が伸び、ルネの金髪を優しく梳いた。 「――野良猫みたいだと思った」 「そっちは女神で、こっちは野良猫かよ!」  ルネの文句を聞き、主人は楽しげに目を細める。 「でも、極上の野良猫だよ。きれいに洗って餌をたっぷりやれば、美しい立派な猫になると思った」  そして猫をあやすように、ルネの顎を指でくすぐる。 「もう猫じゃない。お前は黄金のたてがみを持ったライオンだよ」 「さすがにそんなに立派じゃないだろ」  照れ臭いのをごまかすように、残りのワインを飲み干した。  夜会の続くショセ=ダンタンの街並みを抜け、リセ・コンドルセの古い校舎をひらりと飛び越える。サン=ラザール駅の屋根を踏み、ルネが教師として勤めるプティ・リセの中庭に降りた。 「教師の仕事はどうだ?」 「そうだね。毎日大変だよ、クソガキばっかりで!」  誰もいない夜の校舎に、ルネと主人の笑い声が響く。
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