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「――最初は一緒に寝ていたのに、隣の部屋に移ると言われたときには少しショックだった。それからしばらく、慣れるまでひとりで上手く寝つけなかったんだ。お前に会うまではずっとひとりで寝ていたはずなのに」
そんな素振り、少しも見せなかったくせに――ルネは驚き両目を丸くした。
「身体から溢れ出すような、お前の体温が好きだった」
「――何それ。いまになってずいぶんいじらしいことを言うね」
主人は指先で高い鼻の頭を掻いた。そんな仕草も初めて見る。
「お前と風呂に入るのも好きだったし、抱えて飛ぶのも好きだった。お前が楽しそうにするから、私も楽しくて」
暗がりから長い指が伸び、優しくルネの髪を梳く。
「私はこんなふうだから、自分から上手く甘えられない。だからお前が素直に甘えてくるときは、可愛くて仕方なかった」
急にそんなことを言われ、火がついたように顔が熱くなった。可愛いなんていう言葉も、いままで一度も聞いたことはない。
「――可愛いなんて柄じゃないだろ。クソガキだっだし」
「お前は可愛かったよ。いまだって可愛いんだ」
何度も言わなくていいよ、とルネは主人の腹を掌で押しやった。主人は眉尻を下げ、口を大きく開けて笑い出す。主人の楽しげな大笑いが、夜の校舎に響き渡った。
そんなふうに笑えるんじゃないか。一緒に暮らしていたのに、知らなかったことばかりだ。
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