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ねえ、オーギュ。一番何が楽しかった?
ずっと楽しかったよ。お前と一緒に暮らしはじめてから。
ねえ、オーギュ。俺がアンリと旅に出たとき、寂しかった?
寂しかったよ。あの一週間、上手く眠れなかった。
本当は、焼きもち焼いていたでしょう?
そりゃあ焼くさ。あいつは私の持たないものを、何でも持っているから。
アンリほどたくさんのものを持っている奴なんて、他に誰もいないよ。
主人は腕を組み、全面降伏の笑みを浮かべる。
あれはいい男だな。自分の持っているものを、何でも惜しみなく周りに与えてしまう。
太陽みたいな奴なんだ。みんなアンリのことが好きだよ。
すると主人は眉間に深い皺を寄せた。
お前は結局、月と太陽のどちらが好きなんだ。
そんなの選べるわけがないよ。比べられるようなものじゃないだろ。
そこはお世辞でも月だと言ってくれよ。最後の晩なんだぞ。
ルネは腹を抱えて笑った。
ねえ、オーギュ。ねえ、オーギュ。
小さな頃のように、腕に纏わりついてその名を呼ぶ。
生まれて初めて手に入れた、優しく冷たい温もり。それが世界のすべてだった。
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