歓びの歌

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歓びの歌

 Le 14 Juillet 1929  オーギュ、今日はあなたがヴァンピールになって一四〇年目の記念日だ。毎年数えなくてもいいと思っているだろう? でもね、そうやって数えていると、オーギュに会える日が、また少し近づいている気がするんだよ。  私はいつの間にやら四十二歳になったよ。でもこの世界でやることがまだまだたくさん残っているから、私を迎えに来るのはもう少し待っていてほしいな。  今日はついに〈リュミエール〉の子たちの晴れ舞台だ。フランス革命記念日である今日、エッフェル塔の下のシャン・ド・マルス公園で毎年行われる野外コンサートに参加することになったんだよ。なんと、あの子たちがベートーヴェンの交響曲第九番『歓喜の歌』を歌うんだ。まだ小さい子もたくさんいるのに、みんなドイツ語の歌詞をしっかり覚えて立派なものだよ。  私はあのシラーの歌詞が大好きなんだ。まるで私とオーギュの物語のようだからね。マリー=アンヌもだいぶ力を入れて教えていたようだから、見に行くのをずっと楽しみにしていたんだ。  エッフェル塔はいまでも大好きだ。あそこにはオーギュとの思い出がたくさん詰まっているから、目にするたびに足元が浮き上がるような心地がするよ。  〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜  明るい初夏の窓辺で、ルネはその日記帳を閉じた。  階下に電話のベルが鳴り響く。だがそれは長く続かず、よく通るソプラノがその音を断ち切った。
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