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「アロ? ……あっ、アンリね! いつパリに帰ってきたの? ……えっ、今日? それじゃあ疲れているんじゃない? うん、そう。今夜の九時半からよ、シャン・ド・マルスで……えっ、来てくれるの? わぁ、嬉しい! アンリが来てくれるなら張り切らなくちゃ! ……ええ、八時にお迎えね。じゃあ、パパ・ルネをお願い、ひとりじゃ不安だから。最前列に席を用意しておくわね。……ええ、もちろん、私もよ。大好きよ、アンリ!」
話し声が途絶えると、こんどはバタバタと階段を駆け上がる足音がする。もう二十五歳だというのに、いつまで経っても家の中を走り回る癖が抜けない。
勢いよく部屋の扉が開き、美しいブロンドを縦に巻いたマリー=アンヌが顔を出した。
「パパ・ルネ! 今日はアンリが八時に迎えに来てくれるって! ああ、嬉しいわ。アンリはシャネルのショーの準備で来られないだろうと思っていたから、がっかりしていたのよ。でもアンリが来てくれるというなら、いつも以上に張り切っちゃうわ」
そうはしゃぎながら、ふっくらとした頬を薔薇色に染める。
美しい娘になった。小さい頃から天使のような愛らしさだったが、いまでは春の女神のようだ。
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