歓びの歌

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「……ねえ、パパ・ルネ。アンリはいま、新しいお相手はいるのかしら? もしいないなら私、立候補しようかと思うんだけれど」  マリー=アンヌは両手を頬に当て、うっとりと瞳を潤ませる。その言葉を聞き、ルネは灰青の目を剥いた。 「……何を言ってるんだ、マリー=アンヌ! アンリはもう四十後半だぞ! パパよりも年上なんだから!」 「愛に年齢なんて関係ないわよ。それにアンリは若々しくて格好いいし、同じ年頃の男の子よりもずっと魅力的だわ。何といっても大金持ちだしね。フランス中の女性が後釜を狙っているわよ。そもそもアンリは私と結婚してくれるって約束していたのに他の人とさっさと結婚しちゃうなんて、本当はまだ許してないんだから! 約束はきちんと果たしてもらわないとね」 「そんなの子どもの頃の約束だろ! アンリが私の義理の息子になるなんて、勘弁してくれよ」  ルネは呆れ返り、ぐったりと背もたれに寄りかかる。  アンリは三度結婚し、三度離婚した。  一度目はファッションショーで知り合った金髪碧眼のマヌカン(ファッションモデル)だ。だが相手に他に好きな人ができ、話し合いの末、離婚を決めた。  二度目は金髪碧眼の米国人デザイナーだった。そのときはアンリの方に他に好きな人ができた。  三度目は金髪碧眼の美人生物学者だ。ところが先日、ある研究チームのガラパゴス諸島の生態調査に随行することが決まった。いつ帰れるかわからない、永住したくなるかもしれないし、と相手が言い出し、円満に合議離婚をした。  別れた後も元妻たちとの仲は良好で、さらに三人の元妻たちの仲まですこぶる良いらしい。
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