歓びの歌

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「シャネルとの仲はどうなんだよ? 最近親しくしているみたいじゃないか」 「ああ、それはないな。俺は黒髪の女は趣味じゃない」  だからって、よりによってマリー=アンヌを、とルネはぶつぶつ文句を言った。アンリの相変わらずの徹底した金髪碧眼好みには、開いた口が塞がらない。  マリー=アンヌがリュミエールの子たちに歌を教えはじめたのは、パリの音楽院に入学して間もない頃だった。戦後すぐに設立したリュミエール孤児院に、オーギュストとマリー=アンヌはよく手伝いに通った。ふたりは孤児たちをよく可愛がり、オーギュストは絵を、マリー=アンヌは歌を教えた。  ある年、マリー=アンヌが思いつきから孤児たちを集め、小さな聖歌隊を作った。そして孤児院の近所の住民を招き、小さなクリスマスコンサートを開いたのだ。その聖歌隊の評判が思いの外よかったことから、マリー=アンヌはそれ以来、週に一、二度、孤児たちに歌を教えるようになった。  こうして出来上がった〈リュミエール少年少女合唱団〉は、数年後パリの市民合唱コンクールで受賞を果たした。それが戦災孤児により作られた合唱団だったことからパリで大きな話題になった。  やがて他の孤児院からも合唱団に加わりたいとの声が出始め、リュミエール少年少女合唱団は、〈パリ・リュミエール合唱団〉という名の、パリを代表する大合唱団と姿を変えた。  そしてついに今年、フランス革命記念日に毎年行われる音楽コンサートへの出演の依頼が合唱団に舞い込んだのだった。  会場であるシャン・ド・マルス公園に近づくにつれ、徐々に人の流れが大きくなっていく。 「こんな大勢の人の前で、あの子たちちゃんと歌えるかな」  ふと不安げな顔をしたルネに、アンリは太陽のような笑顔を見せる。 「大丈夫だよ。今日はマリー=アンヌも一緒に歌うんだから。俺たちは安心して音楽を楽しもうぜ」
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