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話をしている間にもエッフェル塔の足元にたどり着く。用意された客席はすでに大勢の観客で埋まっており、がやがやとお祭り騒ぎだ。
設えられた舞台の上では、すでにオーケストラが音合わせをはじめている。その背後には、ライトアップされたエッフェル塔が燦然と観客を見下ろしていた。
「おーい! ルネ!」
背後から名前を呼ばれ、ルネは驚いて振り向いた。すると人混みの向こうで、枝のようにひょろ長い腕が大きく手を振っている。
「ゴーシェ先生!」
マクシムの髪はすっかりグレイに染まり、妻と三人の子どもを連れていた。
上から、男の子、女の子、男の子。一番上の子はもう大学生だという。皆、長身の痩せ型でマクシムによく似ている。
「ルネ、今日はリュミエールの子たちが出るんだろう? おめでとう! あと学長就任もおめでとうな!」
ぺこぺこと自分に頭を下げるルネを、マクシムは肘で小突いた。だがすぐに悔しそうに眉尻を下げる。
「あーあ。ついにお前に追い越されたかぁ! 俺もだいぶ健闘したんだけどなぁ」
現在マクシムは、パリの名門校リセ・アンリ・キャトルの教頭だ。マクシムとは職場が変わった後も連絡を取り合っており、ときどき食事に行くこともある。
「じゃあこんど約束通り、極上のブイヤベースをご馳走しますね」
ブイヤベースという言葉に、隣にいたアンリが反応した。
「えっ? 何でブイヤベース? いいな、またプロヴァンスに食いに行こうか?」
アンリの言葉にこんどはマクシムが反応した。
「えっ? 何でプロヴァンス? ――あれ、あなたうちの妻が結婚式でお世話になった、あの伯爵家の! うわぁ、その節はどうも!」
わいわいと会場の隅で騒いでいると、またどこからかルネを呼ぶ声をした。
驚いて振り返ると、飛び跳ねるようにこちらに駆けてくる小柄な中年男性の姿がある。
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