歓びの歌

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「あの子たち、ずいぶん立派になったじゃない。みんな、あんなに堂々として」  隣で、オーギュストが嬉しそうに目を細めた。   歓びよ   美しき神々の閃光よ 楽園の乙女よ   我々は炎に酔いしれつつ   天上の神殿へと歩んでいこう   おまえの不思議な力は   時の流れが引き裂くものを ふたたび結び合わせる   おまえの優しい翼に抱かれて   すべての者は兄弟となる  天へ駆け上る歌声とともに、ルネは目の前にそびえる黄金の塔を仰いだ。  いまもときどき思い出す。この塔を生まれて初めて目にしたあの晩。それを振り仰ぐ蒼白い横顔。心に生まれた強い願い。  この人とともに、同じ時を生きていこうと。  その願いは叶わなかった。でもいまは、それでよかったのだと心から思える。  きっといつかまた、出会うことができるだろう。天の翼に抱かれたときに。   誰かにとって 真実の友となる快挙を成し遂げた者   心通い合う伴侶を見つけた者は   歓びの声を合わせよう   そうだ この世界の中でただひとりでも   自分の魂といえるものがあるなら 声を合わせよ   それができない者は 涙を流してこの仲間の輪を去るがいい  マリー=アンヌの煌めくようなソプラノが、天上を明るく照らす。  それに重なる子どもたちの歌声。星々となり天に大きな星座を描く。  淡い群青に染まりはじめたパリの夜空に、あの人の春風のような笑顔が浮かんだ。  見て、マリー=アンヌ。この子らはあなたの強く優しい魂を受け継ぐ子だ。  あなたは惜しみないキスを、抱擁を、私に与え、柔らかな春の日差しのように包み込んでくれた。あなたの残した温もりが、いまでも私を勇気づけてくれる。
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