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生きとし生けるものは皆 自然の胸に抱かれ
その乳房から歓びを口にする
善きものも悪しきものも
自然が与えてくれた 薔薇の小道を辿っている
自然はキスと 大地の恵みを与えてくれる
試練をともにする 友人をも与えてくれるのだ
ならば快楽は虫たちにも与えてやろう
そのとき智天使ケルビムが 神の御前に現れるのだ
暗い街に生まれ、苦しみと孤独とともに育った。いったい何度、人生を投げ出そうと思っただろう。そんな私の手を引き、この世に生きる歓びと楽しさを、太陽の恵みに満ちた世界を教えてくれた大切な友。魂が悲しみに沈んだとき、掬い上げてくれた大きな掌。その溢れるような力強さ。優しさと明るさ。
永遠に忘れないでいようと思う。いつかこの身が朽ち果てようと。
隣にいるアンリの掌を強く握る。アンリが強く握り返す。
「もう泣いてるじゃねーか」
耳元でからかうようにアンリが言う。笑われたって構わない。その太陽のような笑顔が、いったいどれほど私を温めてくれただろう。
「俺たちのパパ・ルネは、いくつになっても泣き虫だな」
オーギュストが左手を握る。それを強く握り返す。
強い、太陽の子だ。主人が最後に求めた、目の眩むような太陽の。
神の星々が 天空を駆け巡るように
壮麗な天の軌道をわたるように
進め 兄弟よ
勝利に向かう英雄のように、
歓びに満ちて 自分の道を歩め
オーギュ、この歌が聴こえているかい?
戦いで親をなくし、家をなくした子らが、この世の歓びを歌っているよ。
いま目の前にある光景は、私の、そしてあなたの歩んできた道だ。
あなたは私の魂を救い、そしてあの子たちの魂をも救ってくれた。
私をこの世に生かし、自分の足で歩くことを教えてくれた。
その力は受け継がれ、永遠に広がっていくだろう。私がこの世から消え去った後も。
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