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大観衆とともに、アンリが手を叩き立ち上がる。子どもたちに注がれる大きな称賛と鳴り止まぬ拍手が、天からの祝福のように耳を満たしていく。
「素晴らしいね、父さん。世界は歓びで溢れているよ」
この世界を鮮やかに描く大きな掌が、震える私の肩を抱く。
黄金に輝く塔を、その上に広がる漆黒の夜空を仰ぐ。
あなたがこの世に生まれたことを祝うように、大輪の花火が夜空に咲いた。
鮮やかな火の粉が、瞬き、弾け、こぼれ落ち、この街に光の雨が降る。
オーギュ、そこにいるのだろう?
あなたが私を呼ぶ声。髪を梳く冷たい指先。蒼い星のようなふたつの瞳。
私の細胞のひとつひとつに、あなたのすべてが染み込んでいる。
どうか私を見ていて。私の手を、ずっと離さないで。
毎朝、毎夜、あなたに語りかける。
ねえ。見えるだろう、オーギュ。
いまの私を取り巻く、明るく、優しい世界のすべてが。
この夜に揺れる笑顔の海。強く確かな友の掌。数え切れぬ愛しいものたちの温もり。
無条件に注がれる月と太陽の光。風と海と大地。天上に満ちる歌声。
あらゆるものへのくちづけを。
祝福してくれ、オーギュ。
この世界すべてが、私が人生で勝ち得た、最愛のものだ。
漆黒と遊泳 完
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