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己が覆そうとした一人の少女の未来は、それから変わったのであろうか。深い闇に沈んだその意思に確かめる術など無かったけれど考えずにはいられなかった。
「光…?」
不意に誰かが己の名前を呼び、ヒカリは薄れゆく意識を明瞭にするよう努めた。見覚えのある顔が、己を見下ろしている。
「お前か…」
ヒカリはぶっきらぼうにそう返した。すると女は苦笑して、己を優しく包み込む。その仕草には覚えがあった。明日香が遊んでくれた時、一緒に眠った時、こうして抱きしめてくれたのと同じだ。
「ありがとう光…明日香の間違いを止めてくれて。私にはどうすることもできなかったから」
「ヒカリは明日香の友達だから、当然だ。言われなくても守るつもりだった」
丁寧な口調は何処へやら、ヒカリは饒舌に、けれどサッパリとした言葉で女と言葉を交わす。女は、明日香の母はそんなヒカリの態度にも嫌な顔一つせず、空を見上げた。
そこには暗闇だけが広がっていたが、明日香の母はそこに何かを見ているようであった。
「光、ありがとう。だからこれはお礼ね」
女はそう言って空へとヒカリを差し出す。一体何をするのかと思考したヒカリの体を、柔らかな手が受け止めた。それが誰の手であるか、ヒカリは一目でわかった。わかったからこそ嘘だと思った。
「古いおもちゃなので、部品があるか心配でしたが、なんとかなりました。ボロボロの状態で持ってこられた時は驚きましたよ」
知らない声がそう少女に言った。コンクリートに打ち付けられ損傷した車体は、新品とはいかないまでもほぼ元の状態まで修復されていた。そんなヒカリを大切に胸に抱えた少女はその言葉に「本当にありがとうございます」と頭を下げてお礼を言った。
おもちゃ修理の店主は続ける。
「どうしても直してほしいなんて、よほど大切なものなんですね」
その言葉に明日香は「はい」と肯定し、
「友達なんです」
と、満面の笑みでそう答えた。
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