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彼女は知らないだろう。と、己は思った。「思った」という言葉が、己のような存在に当てはまるとは到底思えないが、確かに己の意思をもって思考したのだ。
彼女の姿を見ると、かつて己に名を与えた幼い女児と、その側にいた女の事を思い出す。
「きめた! あなたのおなまえはひかり!」
「いい名前ね。きっとこの子は、あなたが迷子になった時も、その名前のままにあなたの行く先を照らしてくれるわ」
無邪気な笑顔で己を掲げ、大切にしてくれたその女児は、常に隣にいた女が消えた日から、突然笑みを見せなくなった。己と共に遊んでも、時折寂しそうにしては何もない場所を見上げ、なんの前触れも無く泣いた。
「どうかしたのか」とも「何があった」とも聞けない己の身を、呪わなかったことはない。己が彼女と同じ種族であったのなら、傍にいた女のように、その頬を伝う雫を拭うことが出来たのだろうか。
そんな、叶うはずもない愚かな考えまで巡らせてしまう己は確かに、普通の枠から逸脱していた。名付けられた物は意思を得る、名前は短い呪である、とは女の言葉であるが、その通りであった。
「光。この子を守って、お願いね」
己の異常を知ってか知らずか、己を買い上げた女はそう言って、女児の小さな手に己を返した。女児は私を受け取ると、満面の笑みで言うのだった。
「ちがうよ、まま。あすかがひかりをまもるの! だってひかりは、あすかのともだちなんだから!」
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