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凛。と涼生が手を差し出した。すこし頬を赤くして照れたような笑みを浮かべる涼生は、どこかむず痒いのを我慢しているみたいだ。
「じゃあ、ここで引き渡しちゃおうかな」
陽平が涼生に凛の手を渡した。
「凛」
陽平が呼びかけるその声は愛に満ちている。
「ここから先、助けてくれるのは涼生くんだよ」
「うん」
凛はこっくりとうなづいた。陽平は涼生に向き合う。
「たのんだよ」
「はい、しっかりと」
涼生は渡された凛の手をかたく握った。
それを確かめたかのように、浮足立った参列者たちは腰をおろした。俊彦も由紀江もやれやれと胸をなでおろして席へ戻った。
凛と涼生、穣は三人手をつないで、陽平とアオイに見守られながらバージンロードを歩んでいく。
「青山涼生。あなたは病めるときも健やかなるときも云々」
「誓います」
「小川凛。あなたは病めるときも健やかなるときも云々」
「誓います」
「では、誓いのキスを」
――ふふっ。
向かいあって二人とも軽く吹きだしてしまった。照れくさくって、恥ずかしくって。うれしくって、楽しくって。ほんのちょっぴり切なくって。
ヤバいな。鼻の奥がツンとする。涼生の目もちょっと赤い。
こんな日が来るなんて思ってもいなかった。助けてくれるのは、アオイと陽平そしてごく身近な人たちだと思っていた。
ニューヨークで勝手に離れた凛を、涼生がまた見つけてくれたから。
――だから。
――だから、わたしもあなたを助けるね。
そして笑いながら誓いのキスをした。
きょうの涼生は一層キラキラしているな。
涼生にかかったフィルターは健在である。かっこいい大人だったり、いまだに少年臭い寝顔だったり、あたふたした暴走特急だったり、たよりになる男の人だったり、良きパパだったり。
一枚剝がれるとまたあらたな一枚が加わる。そうやって何度も何度も入れ替わっていくのだ。ただ一枚、最初のキラキラを残して。
それはもはや絶対に剥がれないデフォルトだ。おじさんになっても、おじいさんになっても、息を引き取るそのときまでも。
そしてたぶん、その亡き後は一層そのキラキラに拍車がかかるのだ。
「パパ! ママ! オレもちゅーしゅる!」
穣の声が響く。なごやかな笑いが起きる。
「よーし!」
涼生が穣を抱き上げた。
「ほーら。チューするぞ!」
凛と涼生に左右からキスをされて穣がケラケラと笑った。
FIN.
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