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ようやく出てきたのはか細い声。みっともないまま、ねだる形になった。
「だったら、その時には教えてくれる?私じゃなきゃ、ダメな理由」
「もちろんです。何て言おうかずっと考えてて...ようやく決まったから、こうして」
手のひらをくすぐられるのに耐えきれなくて、腕を引き戻す。
膝の上で指先を弄ぶ。続きを探して、おそるおそる顔を上げる。
大仰に言ってのけた、過去の自分を責めたい。だって、私でなければいけない理由など、ありもしないのだから。
競技者としてのキャリアは彼の方が上で、ファンが増えたことも知っている。一方私は裏方専任で、かつて一部で評判だったルックスも過去のものだと理解している。
ちがう。強気に言ってやったのだと、冷静な自分がかつての自分を擁護する。
間違ってなんかいなかったんだよ。なのになぜか、心が軋んでいる。
「俺が陽さんを好きなのは―――」
それでもと、耳を澄ます。聞き逃したくはなかった。
年月掛けて見つけてくれた、私の長所。私への褒め言葉。
「ありがとう」
きっと、この瞬間を忘れない。今までの全てを肯定してくれた気がして、胸の奥が熱い。目頭にまで灯った熱を、必死に冷ます。百面相なんて、気にする余裕はない。
自信を持って、その言葉に恥じぬよう進んでいこう。
一途に。
「私も、相川くんのそういうとこが好きだよ」
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