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1.野望
玩具業界の国内シェアナンバー1メーカーと言えば、二代目社長が今後の世界的なIT化を見据え、家庭用ゲーム分野を追求、拡大し大きく業績を伸ばした「Fun Toy」だ。
そのFun Toyの背中を追い、業界ナンバー2に甘んじているのが、俺の父さんが二代目社長を務めている「花咲グループ」の玩具部門。
どちらも年間百億単位の売上を誇る大企業に違いはない。でも業界のトップかそうでないかは、経営を回してるお偉いさん方には重要すぎる差らしく。
三役の子ども、そのまた子どもまでが戦々恐々とせざるを得ない古臭い世襲もあって。
物心ついた頃から、俺は花咲グループ時期専務の肩書きを約束され、ワケも分からないままに英才教育を受けてきた。
俺には五つ離れた兄さんが居るから、誰もが羨む社長の椅子には座れないんだけど、別にそれがなんだって感じだ。
周りは畏まった大人ばかり。同じ年代の子どもたちも、俺と似た境遇のお坊ちゃまばかりで可愛げが無い。
紺色の小さな制服を着て、みんなお揃いの黄色い斜めがけ鞄をさげてるくせに、大人と同じ目線でいようと背伸びをしている〝お坊ちゃま〟たち。
金持ちの息子はどこも一緒なんだな、と俺も揃いの制服を着て可愛げ無く達観していた。
俺は本当に、他人のことをとやかく言えないくらい冷めてる子どもだったと思う。だからこそ、裕福な家庭の子どもばかりが通う幼稚舎でも苦無く過ごせていたのかもしれない。
独りぼっちが好きで、無口で、感情の変化が分かりにくいけれど、賢い子。
周囲の大人たちの俺に対する評価は、こんなところ。
つくづく子どもらしくなかったと思う。
その日起こった事件や事故を伝えるニュースを流し見しつつ、さらには経済新聞を広げて世界のマーケット事情をふむふむと眺めているのが好きな子どもなんて、そうは居ないだろう。
何たって俺は、若干五歳で花咲グループを玩具業界のトップに押し上げたいという野望があったんだ。
──けれどそのわずか二年後、とある男と出会い俺の野望は呆気なく形を変えた。
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