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「クララ、遅くなってしまったね。朝御飯にしようか」 「お兄さま……」  今回は相手が自分から墓穴を掘ってくれたけれど、似たようなことはこれからも起こるだろう。そのときに、私の生まれを突かれればややこしいことになる。これ以上、お兄さまに迷惑はかけられない。私は覚悟を決めた。 「お兄さま、私、本当はお兄さまの妹ではないんです」  知らんぷりをして家族ごっこを続けていたかった。でもそれではダメなのだ。私の発言に、お兄さまがウインクを返す。 「ああ、知っているよ。それで、今日の予定なのだけれど」 「……知って、る?」  お兄さまの言葉に頭がくらくらしてきた。先ほどのペンダントのことといい、お兄さまは一体どこまでお見通しなのだろう。 「お腹が空いているときにややこしい話をしても、疲れるだけなんだけれどね。仕方がないな」  動揺する私が食事どころではないと気づいたのか、朝食を食べながら今までのことを話してくれた。 「もともと僕は結婚願望がなくてね。それなのに周囲からの圧力がすごいから、『あの子みたいな可愛い子がいるなら』と返事をしていたんだ。それがいつの間にか、生き別れの妹探しになったみたいでね」 「まるで他人事みたい」 「完全に他人事だよ。お茶会を取り仕切っていたのは、この国に僕を縛り付けておきたい上司だし」  結婚でもしないと、お兄さまは簡単に出奔しかねないと思われていたのだろうな。 「結局、『あの子』というのは誰なの?」 「かつて妹のように可愛がっていた女の子だよ。話に尾ひれがつくのはどこの世界でもよくあることだろう?」  肩をすくめてみせるお兄さまだけれど、きっと噂が噂を呼び、話がどんどんかけ離れて行くのを楽しんで見ていたに違いない。お兄さまは、そういうひとだ。 「君は本当に『あの子』にそっくりだね」  優しい目をするお兄さまに、もやもやが胸いっぱいに広がっていく。一体「あの子」というのは、どんな女の子だったんだろう。
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