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もはや支離滅裂である。アレックスは心のなかで号泣し、取り繕った。
「そういえばキャロル。休み時間に探し物してなかった? さてはまたなにかなくしたのかい?」
キャロルはおっちょこちょいだ。ほんの数分前まではペンケースのなかにあった新品の消しゴムも、父親の部屋から持ち出した使いもしないギターピックも、河原で見つけたきれいな石も、気づけば光の速さで見失っている。かと思えば、いつの間にか仲良くなっていたサリーおばさんからもらったあめ玉だけはいつも上着のポケットに入っているのだから不思議だ。
キャロルはばつが悪そうにあさっての方を見ると、そこで初めて目が合ったサリーおばさんにちらりと手を振り、ぼそりとこぼした。
「別になにもなくしてないわよ」
「その様子だと、なくしたものがまだ見つかっていないんだね?」
「だからなにもなくしていないんだってば」
「へえ。それじゃ僕は探すのを手伝わなくていいんだね」
「え? ああ、うん、もちろん!」
キャロルがわかりやすく動揺するので、アレックスは吹き出しそうになりながら背中を向けた。
「帰って宿題しなくちゃ。また明日、キャロル」
「あ、アレックス!」
聞こえないふりをして早足で歩いていたアレックスだが、追いかけてきたキャロルに腕を引かれ、強制的に停止させられた。
「ちょっと待ってよ。私の話を聞いて」
「話って今じゃないとできないこと?」
「私の話に無駄なことなんてひとつもないわ。知ってるでしょ?」
「ふふ、そうだね」
「少し笑ってるのが気になるけど、私は懐が海のように深いから許してあげる。歩きながら話しましょ。魔法使い通りまで付き合ってほしいのよ」
僕が求めていたのは『ちょっとそこまで』みたいな付き合いじゃないんだけどな、とアレックスは思ったが口には出さない。キャロルはアレックスの複雑な胸中などまったく無視して、アレックスの上着のポケットに右手を突っ込んだ。
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