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◇03. 三度目の君
「姉ちゃん。キョドるなよ。……でどしたのその傘は?」
パーティー会場で弟に言われ、ううんなんでもない、と雨音は首を振る。ところと場所が変わって、二月上旬の寒い日。ある、文学賞の受賞パーティーがあるということで。書評も出来る書店員さんとして名高い弟を頼り、関係者に紛れ込んでやってきた。……自分は浮いていないか。ふと不安になる。パーティーということでちゃんと正装して……鮮やかな水色のドレスを着てきた。まるで雪の女王みたいな。
それでだ。弟の発言に対し、雨音は、
「……雨の日の君の置き土産なの」
「置き土産ぇ?」弟が、整った眉を歪めたそのとき、雨音の背後で物音がした。続いて、ぴしゃん、となにか冷たいものがかかる音。
「……申し訳ありませんっ」女性だ。深紅のドレスを着た女性が持つシャンパンがどうやら雨音に降りかかったらしい。女性は頭を深々と下げる。「わたくしのとんだ不注意で……あの。ドレスは……」
「ああ」あっさりと雨音は答える。「いえ別に。ドレスなど、……洗えば汚れは取れますから。お気になさらず」
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